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大阪高等裁判所 昭和35年(ラ)221号 決定 1960年10月03日

抗告人 中小企業金融公庫

主文

原決定を取り消す。

本件競落を許さない。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は、別紙のとおりである。

原審記録によると、抗告人は、別紙目録記載甲、乙、丙の不動産につき設定された抵当権の実行として原裁判所に競売の申立をしたところ、原裁判所は鑑定人清水久米治の甲不動産を一一〇万六二五〇円、乙不動産を四六万九三三〇円、丙不動産を一六万七四七〇円とした鑑定の結果に基き第一回競売期日の公告にそれぞれの最低競売価額を掲載したが、丙不動産のそれを一七五万三〇五〇円(甲、乙、丙各不動産の右鑑定価額の合算額は一七四万三〇五〇円となる。)と誤記したまま、競売手続を進行させ、第一回競売期日には競買申出をする者がなかつたので、原裁判所は新競売を行うべく、第二回競売・競落期日を指定した。ところが、原裁判所は第二回競売期日の公告に、(1) 甲不動産の最低競売価額を、第一回競売期日の公告に掲載した最低競売価額一一〇万六二五〇円よりその一割に当る一一万〇六二五円に一〇万円を加算した二一万〇六二五円を低減した八九万五六二五円として掲載し、(2) 乙不動産の最低競売価額を、第一回のそれよりその一割に当る四万六九三三円を低減した四二万二三九七円として掲載し、(3) 丙不動産の最低競売価額を、第一回のそれよりその一割にあたる一七万五三〇五円を低減した一五七万七七四五円として掲載し、その第二回競売期日に甲不動産のみについて八九万六〇〇〇円の価額で競買申出があり、第二回競落期日に原裁判所は、甲不動産について、八九万六〇〇〇円の価額をもつて競落許可決定をしたことが認められる。

右認定によると、原裁判所は、甲不動産の第二回競売期日の最低競売価額を、第一回競売期日の最低競売価額一一〇万六二五〇円よりその一割に当る一一万〇六二五円を低減したものとすべきところ、誤算の結果、これに一〇万円を加算した額二一万〇六二五円を低減したものであつて、その競買申出はこの誤算の結果による最低競売価額八九万五六二五円に基いて、行われていることが認められる。してみると、原裁判所は、誤算によるものとはいえ、結局甲不動産の前示最低競売価額一一〇万六二五〇円よりその一割九分強に当たる額を低減したものである。新競売を行うべき場合に、最低競売価額を低減すべき程度は、当該競売手続の進捗と各関係人の利害を衡量のうえ、競売裁判所の自由な裁量によりその適当と認める限度まで低減すべきである。これを本件について考えてみるに、原裁判所は、乙、丙不動産については、前示のように初回の最低競売価額の一割に当る額を低減しているのであつて、甲不動産について、とくにその一割九分強に当る額を低減すべき合理的理由を認むべき事実を確認するに足りる証拠はない。とすると、原裁判所が、本件競売手続において甲不動産につき、とくにその一割九分強に当る額を低減したのは、自由な裁量の限度をこえるものであつて違法というべきである。してみると、このように違法に低減した最低競売価額を第二回競売期日の公告に掲載したことは、適法な最低競売価額の掲載がなかつたことに帰するものというほかはない。右の違法は、競売法二九条民訴法六五八条六号に違反し、競売法三二条民訴法六七二条第五号に当り、他面、第二回競売期日における前示競買申出は、すべての利害関係人の合意をもつても変更できない法律上の売却条件にてい触し、競売法三二条民訴法六七二条第三号に当るものであつて、いずれも競落不許の原因となるものというべきである。

そこで、民訴法四一四条三八六条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 熊野啓五郎 岡野幸之助 山内敏彦)

目録

甲 大阪市天王寺区勝山通壱丁目壱参壱番地の四

一、宅地 弐拾壱坪五合

同所 同番地の四地上

家屋番号同町第五〇六番

一、木造瓦葺弐階建居宅 壱棟

建坪 拾壱坪六合五勺

弐階坪 拾坪五合七勺

乙 同所 同番地の七

一、宅地 拾参坪弐合九勺

同所 同番地上

家屋番号同町第四参八番

一、木造瓦葺弐階建居宅 壱棟

建坪 五坪七合九勺

弐階坪 四坪七合八勺

丙 大阪市天王寺区勝山通参丁目四五番地の四六

一、宅地 拾四坪八合九勺

同所 同番地の四六地上

家屋番号第壱壱壱番

一、木造瓦葺弐階建居宅 壱棟

建坪 六坪

弐階坪 弐坪七合四勺

抗告の趣旨

原決定を取り消し、相当の裁判を求める。

抗告の理由

一、抗告人は、別紙(決定添付)目録記載甲、乙、丙の物件の競売を申立たところ、鑑定人はその最低競売価格を、甲物件は金一、〇一六、二五〇円、乙物件は金四六九、三三〇円、丙物件は金一六七、四七〇円と各鑑定した。

二、しかるに、原裁判所は丙物件の最低競売価格を甲乙丙各物件の最低競売価格の合計額である金一、七五三、〇五〇円と定め(甲乙物件については鑑定通り)で、その他の甲乙物件と共にこれを競売に附した(第一回競売)が、右競売は競買申出人無く終了した。

三、ついで、原裁判所は第二回競売期日の最低競売価格を、甲物件は金八九五、六二五円、乙物件は金六二二、三九七円、丙物件は金一、五七七、七四七円と各定めて競売に附した。

四、しかし乍ら、右競売手続に於ける右最低競売価格の指定は、次のとおり違法であり競落許可決定は取り消されるべきである。

(1)  丙物件については、甲乙丙物件の各評価額の合計額を示している。

(2)  乙号物件については、前記の通り第二回競売に於ける価格が第一回の価格より高い。

(3)  本件競落の目的となつた甲物件については、原裁判所はその最低競売価格を第一回の最低競売価格より一割減ずる意思の許に、第二回の価格を金八九五、六二五円と指定したのであるが、第一回の価格より一割減じた価格は金九九五、六二五円であるから、原裁判所はこの二つの計数からみても明白な通り金一〇〇、〇〇〇円を計算違いして、第二回の競売価格を表示したものであるからこの価格は裁判所の意思に基かないものと言うことが出来る。

(4)  しかして、甲、乙、丙、各物件は同一競売手続に於いて、同一場所にある物件について行われたものであり、乙、丙物件の違法な最低競売価格の指定は甲物件の競売手続を違法ならしめるものと言うことが出来る。

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